
10月25日、土曜日のこと。山の仲間たちが鉢伏山の登山口に集まった。
とはいえ、膝を痛めているボクだけは一人別行動。前から気になっていた山小屋『鉢伏山荘』を、じっくりと見学する腹づもりであった。

ところが、いざ登山口に着いてみると――。
ガスが濃く、寒い。
山歩き組のテンションは、みるみる下降気味。

先日の〝ピノキオ小屋〆山行〟では、暴風雨に打たれながらも誰一人「やめよう」と言わなかった仲間たちもすごかったが、今回の面々はその真逆。
悪天候でも誰一人山歩きに「行こう」と言わない。これまた、ある意味すごいメンバーである(笑)

鉢伏山荘の売店喫茶棟で、コーヒー飲んで一服しちゃう有り様だ。

さて、肝心の鉢伏山荘のこと。

グリーンシーズン中の鉢伏山荘(母屋)の情報は、なかなかネット上にも少なく、建物の概要も分からずじまいだった。
そんな折、仲間の一人が泊まりに行って書いた記事を読んで、ボクの「鉢伏山荘熱」は一気に再燃。

グリーンシーズンが終わったこの時期に、まさか見学できるとは思っていなかったが、その仲間のおかげで、またひとつ貴重な機会を得ることができた。
まるで涸沢ヒュッテ新館を見学した時のような、建築好き冥利に尽きる時間であった。

とはいえ――。
山歩きの体力を持て余した他のメンバーたちが、こちらの「静かな建物探訪」に雪崩れ込んできた(笑)

ボクは一人、間取りや構造や仕上げをじっくり眺めたかったのだが、仲間たちはまるで修学旅行生のように、誰も居ない小屋の中を縦横無尽に動き回る‥。
にぎやかで楽しいけれど、その元気は是非とも山歩きで使ってほしかった(笑)


事前情報によれば、この山荘は1977年竣工で、設計は齋藤裕氏。
麓から鉢伏山を見上げると、屋根の上からもれる光が「山の上の灯台」のように見えるのだとか。
寄棟屋根の上にちょこんと乗った小さな越屋根が、その印象をいっそう際立たせている。

[暖炉ダイニング]

[下段ダイニング]

[下段ダイニング]

小屋の生活圏は、暖炉のあるダイニングを中心に、段差を設けた下段スペースが広がる構成。
晴れていればそこから絶景が望めたらしいが――この日は一面ガス、もや、霧‥。惜しい。

見る位置と季節は違えど、見る方向は同じ──
うしろの「鉢伏山荘・冬期営業小屋」から眺める景色は、こんなふうに見える。

壁は漆喰仕上げで、触れるとひんやりと柔らかい。

高い天井に梁が渡り、仕切りのない開放的な空間が広がっていた。

そのぶん寒さは覚悟だが、中央の暖炉がしっかり建物を包み込んで暖めてくれそうだ。

静かな山の上で、建築を五感で味わう。
建築とは、機能と情感の均衡の上に成り立つものだとボクは思っている。

今回の鉢伏山荘には、その両方があった。
派手さも奇をてらう意匠もない。
ただ、山の上に静かに在りつづけることを選んだ建物はやはり素晴らしい。

そんな山荘に出会えたことが、何より嬉しかった。
とても気持ちの良い「大人の遠足」となった。

[冬の鉢伏山荘(母屋)]
次の遠足先では、またどんな建物と出会えるだろうか。