涸沢ヒュッテ野営場で雪中キャンプをしながら、残雪期の北穂高岳を歩いてきたお話。GW前半の4月26日(土)から29日(火)までの、四日間の記録である。
今年のゴールデンウィークは、うまく休みを調整すれば最大11連休。でも、多くの人にとっては飛び石連休。28日(月)を休めば前後で4連休ずつになり、どこか遠出できる塩梅である。
しかし、どこへ行っても混んでいそうだし、我が家はどうしたものかと考えていると、いつもの仲間からお誘いがかかった。
「雪の涸沢ヒュッテで呑むけど、一緒にどう?」と。
山を登るというよりは、雪の涸沢で旧知の仲間たちと集まり、酒を酌み交わすのが主目的らしい。そんな愉快な場に、ボクらもご一緒させてもらうことになった。
集合は朝5時、沢渡第三駐車場。思いのほか寒くて驚く。
酒と食料を詰めたテント泊装備のザックは、ボクが20kg、ヨメさんが15kg。これでもう限界。ひーひー言っていたら、仲間の一人のザックがなんと40kgということが判明。とんでもない猛者がいるものだと、ただただ驚くばかり。
当然、全員のザックが巨大で、タクシーのトランクには収まらず(笑)。紐で括って、なんとか上高地へ。4人乗り合わせで6000円。一人1500円と、バス代とさほど変わらない。
上高地からは、明神、徳澤、横尾と、じんわり登り調子の林道を3時間ほど歩く。
横尾の橋を渡って梓川を越えると、ふきのとうが元気な顔をのぞかせていた。そして間もなく、雪が現れる。今年はどうやら、涸沢にも例年より雪が多いらしい。
夏の時期に涸沢ヒュッテまでは歩いたことがあるけれど、雪道は今回が初。本谷橋はまだ架けられておらず、アイゼンを装着し、トレースを頼りに雪の道を進む。
しばらく歩くと、ようやく涸沢ヒュッテの屋根が見えた!
……けれども、そこからが長かった。小休止をたくさん挟みながら、勾配のきつい斜面を、歯を食いしばって登る。
午後3時ごろ、ようやく涸沢ヒュッテのテント場に到着。
すぐにでもテントを張りたいところだったが、風が強く、雪壁で風除けを作らなければテントが耐えられそうになかった。
ここで、今年3月に受けたイグルーづくり講習の成果が発揮される。スコップとスノーソーが大活躍。せっせと雪壁を築く。
涸沢パノラマ売店の前では、すでに仲間たちが集結していた。
急ぎ酒肴の準備を整え、いざ参戦。
テーブルに並ぶ料理は、まるで山の居酒屋か。いや、これはもう居酒屋を超えている。
宴会は、ザックの重さと雪壁づくりの疲れで20時過ぎには終了となった。各自、翌日の登山に備えることに。
ところが夜中、ものすごい風にテントが揺れる。雪壁をちゃんと作ってなかったらと思うと、ゾッとする。テントはなんとか耐えてくれた。
しかも初日の夜は寒かった‥。寒さに強いはずのボクらが震えてあまり良く寝られず。せめてシュラフカバーは持参するべきだったと反省した一日目であった。
翌朝、超快晴!
空気も澄み、目の前に聳える北穂高岳が実に凛々しい。登らない理由が見つからない。ただし、ヤマテンによると稜線の風速は20m超……これが唯一の懸念点。
それでも雪の北穂高岳には、どうしても登りたかった。
準備を整え、6時半ごろに登攀スタート。
昨夜の宴の仲間たちはそれぞれ自由に行動していた。奥穂高へ向かった者もいれば、涸沢岳へ、あるいは涸沢小屋まででのんびりという者も。思い思いの山歩きがこれまた面白い。
涸沢ヒュッテ野営場近くで警戒にあたっていた長野県遭対協の方に注意事項を確認。発生して間もないデブリ(雪崩の痕跡)に注意しつつ、北穂沢ルートを進む。
涸沢小屋の分岐を過ぎると、締まった雪にアイゼンがよく効き、高度をグイグイ稼いでゆく。朝日を受けて輝く雪の斜面が美しい。
テント群のカラフルな色合いが、真っ白な雪に映えてまた見事。
今回はGWの飛び石連休とあって、思いのほか空いていたのもラッキーだった。
北穂沢ルートは、残雪期限定の直登ルート。南峰と北峰の鞍部を目指すが、斜度は次第に増し、足元が恐ろしい。しかも、日差しで締まっていた雪が解けて腐りはじめ、歩きづらいったらありゃしない……。
それでも、ついに雪の北穂高岳へ到着!
どこまでも澄み渡る絶景が広がる!!
――が、ヨメさんがいない……笑
実はヨメさん、北穂沢ルートの2/3まで登ったところで、足が攣りそうになり、無理をすると下山が困難になると判断。登頂を断念し、仲間のサポートで一足先に下山していた。仲間には本当に感謝である。
で、これである。
涸沢小屋のマムート生ビールを、ボクが下山するまでに3杯も呑んでいたらしい……笑
さて、山頂では誰もいなかったが、しばらくするとおじさんが登ってきた。
「写真、お願いします!」と頼んだら、快く撮ってくれたが、見事に親指が写り込んでいた……ガーン。
(その後トリミングで親指だけ消した一枚がこちら 笑)
北穂高小屋まで足を伸ばす。この日はちょうど小屋開け作業の真っ只中。来年はこの小屋に泊まって、今度こそヨメさんと頂を目指したい。
斜度のある下山道は、腐った雪でズルズルと滑る。恐ろしくて慎重に、ピッケルとアイゼンで3点支持しながら降りてゆく。
それでも、この絶景である。
前穂高岳の向こうには、なんと富士山まで見えていた。
涸沢小屋に立ち寄ってマムート生ビールで乾杯しようとしたら……ヨメさんが4杯目を呑もうとしていた(笑)。小屋のテラスでは、先に下山していた仲間たちが既に宴会中。
テント場に戻り、防寒着に着替えて一息。
この山旅のもうひとつの楽しみ、『建築家 吉阪隆正 氏設計の涸沢ヒュッテ新館探訪』の時間である。
今回は小屋に連泊する仲間のおかげで、客入り前の静かな涸沢ヒュッテ新館内部をじっくり観察することができた。山中に佇む吉阪建築に、ただただ感動。詳しくはまた別の記事で。
さて、二日目の宴は、なんと昼前から始まった。
時間がたっぷりある分、肴も酒も、前日よりパワーアップ。
酒もばんばん出てくる。
メシもこれでもか!とばかりに並ぶ。
語らいも楽しいが、この景色を肴にせずして何を呑むか。
でも、楽しい宴はあっという間……気がつけば我々以外、誰もいなくなっていた。
20時ごろ、お開き。
翌朝、先に下山する仲間と別れ、ボクらは徳澤園キャンプ場へ場所を移すことになった。
名残惜しい穂高連峰の景色を背に、あれだけ苦労した登りも、下りはあっという間。
徳澤園に到着するやいなや雨が降り出す。テントの設営はギリギリセーフだった。
平坦な芝生のテント場が心地よく、今夜はよく眠れそう。
徳沢園では、まずは、10年越しに食べたかった野沢菜チャーハンをいただく。
これまで毎回タイミングが悪く、ありつけなかった一品だ。今回は注文がギリギリセーフ。12時までとのこと。
……と、これで終わるわけがない。
おでんにピザにビール、日本酒、ワインと、どれだけ呑んで食べたか記憶があやしい。
徳澤ロッヂの外来入浴は15時から。
3日分の汗を洗い流し、シャンプーもボディソープも完備、手ぬぐい付きで1000円。これは全然高くない。風呂上がりに、松本民芸家具が備えられたラウンジで呑む生ビールがまた最高であった。
この日は雨になってしまった。テントの外では呑めず、炊事棟の自炊スペースをお借りして、仮称キッチンあんびる&仮称すなっくキキ兵衛が開店。ともに申し分ないクオリティの高いお店であった笑
この日もまた、信じられないような山の幸が並ぶ。コシアブラ、タラの芽、こごみ……あまりにも美味しい山菜の天ぷらに涙ちょちょぎれる。
翌朝7時ごろ、ようやく晴れ間が出てくれた。
まだ帰りたくない……けれど、限られた時間の中でこそ山は楽しいものなのだ。
また来年も、雪のあるこの時期の山に帰ってきたい。
誘ってくれた仲間、美味しい肴を用意してくれた仲間、新しく出会った仲間たち。こんなに充実したGW前半は、他になかったと思う。
本当に楽しい、愉快な山行であった。感謝、感謝である。
最高点の標高: 3104 m
最低点の標高: 1500 m
累積標高(上り): 2293 m
累積標高(下り): -2284 m
総所要時間: 03:07:06